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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(さ)41号 判決 1952年4月04日

主文

原略式命令中適条において長野県木炭検査規則第一条、第三条、第三三条を適用した部分を破棄する。

理由

検事総長佐藤藤佐の非常上告申立の理由について、

記録を調べてみると、原審木曽福島簡易裁判所は、被告人新井太郎吉は居村において自己の生産した雑木炭を所定の検査を受けず、昭和二三年二月下旬頃八俵 同年三月上旬頃二俵をいずれも肩書地において相被告人岡崎恭平所有の屋根板と交換して同人に譲渡し、被告人岡崎恭平は相被告人新井と前記のように屋根板と木炭とを交換して右木炭計一〇俵を被告人新井より譲受けたとの犯罪事実を判示し、これに対し長野県木炭検査規則第一条第三条第三三条刑法第一八条を適用し、昭和二三年六月七日「被告人新井太郎吉同岡崎恭平を各罰金五〇円に処する。右罰金を完納することが出来ないときは金一〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する」旨の略式命令を発し、右略式命令の謄本は被告人岡崎に対しては同月一〇日被告人新井に対しては同月一一日夫々送達され、被告人等はいずれも法定の期間内に正式裁判の請求をしなかったので、右略式命令は期間の経過により、被告人岡崎に対しては同月一八日被告人新井に対しては同月一九日夫々確定するに至ったことは所論のとおりである。而して、原略式命令において適用した長野県木炭検査規則は昭和二二年一〇月一日より施行せられた長野県薪炭検査条例(昭和二二年九月二九日長野県条例第二八号)によって同日以降廃止されたのである。

従って、被告人等の前示行為当時たる昭和二三年二月及び三月においては、右長野県木炭検査規則は既にその効力を失っていたのであるから、原略式命令が被告人等の前示行為を右規則に違反するものとして処断したことは、適用すべきでない法令を適用した違法があり、この点において、本件非常上告はその理由があるものと認める。

よって、旧刑訴五二〇条一号によって原略式命令中右法令違反の部分を破棄すべく、尚被告人等の前示各所為はいずれも昭和二三年三月三一日法律第一六号による改正前の臨時物資需給調整法第一条昭和二二年一二月一七日農林省令第九三号によって改正された薪炭配給規則(昭和一八年五月一日農林省令第二四号)に違反し右臨時物資需給調整法第四条に従って処断すべきところ、その結果なさるべき判決よりも、原略式命令が被告人のため利益であることは法律上明白であるから、主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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